ジニア戦記

ふとTwitterで思ったことを呟いたのがきっかけで書き始めたジニア戦記が描き終わりましたのでコチラに載せます。

 

以下本文

 

「ねえ!みてください!大尉?大きな魚釣れました!」女兵士がうれしそうに叫んだ。
私は叫ぶ。「大声を出すな。見つかったらどうする。」
私達はキャンプに来ているわけではない。敵地のど真ん中、どこから敵が来るかも解らないような所でのどかに釣りなどしている余裕はないのだ。
彼女が釣った魚を簡単に処理して焼きながら私は言う。
「早く食って寝てくれ。日が暮れる前にあと10キロは北に進みたい。」私は彼女に聞こえる最小の音量で問いかけた。彼女は不満そうではあるが小さく頷き付いてきた。
そもそもなんで私はこんな蒸し風呂のような熱帯雨林でサバイバル生活を送らなくちゃならないのだ。墜ちてもすぐに迎えが来るとか言っていた中隊長、戻ったらぶん殴ってやらなければ。


〜3日前〜
アフィリアのアラク連邦国立記念公園上空
1機の戦闘機が煙を上げている。
「警報、被弾を確認。飛行を継続するのは困難。イジェクトします。」
NF15戦闘機は敵の防空ミサイルによって破壊されてしまった。私は戦闘機から離脱、マニュアル通りに救難信号を送り、救難無線を打ち、救護ネットワークに接続した。本来ならココで本部と繋がるはずなのだ。ところが1時間経っても連絡がない。
「マジかよ…」
私は嫌な予感がした。このような場合は単独で100キロ先の合流地点まで移動しなければならない。訓練で慣れてはいる。でもそれはあくまでも国内での話だ。高温多湿なこの場所では体力の消耗が激しすぎるため通常より時間がかかる。つまりシートに積んである携行食料では足りないのだ。
しかし敵がどこに潜んでいるか分からない所に居続けるよりは移動した方が良いのは確かなので合流地点まで前進することにした。
「蒸し暑い…毒蛇とか居ないといいけど」
私は独り言をボソボソつぶやきながら歩いていた。
味方の航空隊が沢山の爆弾を落としている音がする。私は独りではない。
考え込んでいると音がした。
「誰だ!誰だ誰だ!」
9次方向から女性の声だ。とっさに伏せ小銃を構える。
「名乗ってくださいだれですかぁ…どうしようどうしよう!同志!同志…っていないんだった!えーっと…ってあれ?居ない?」
彼女は通尊兵だった。語学学校で敵性言語を学んでいたのが役に立った。彼女は頭が弱いらしい。
「私は貴方の敵じゃない。貴方も迷子か?」
ぎこちない通尊語で返す。
彼女は私の国籍ワッペンを見てレゴネシアの兵士だと確認したのか
「へ?あ…迷子です…?いや!野蛮な資本主義者の情けは受けない…受けないんだ…」
模範的な通尊兵だ。双葉魂とか言うやつらしい。
こんな時の対処法その一、餌で釣る。
「甘いものとか食べないか?見る限り相当疲れてそうだが。」
私はそう言いながら胸ポケットに入れていたラムネ味のタブレットを出す。
「いただきます…」
彼女の双葉魂はラムネ味のタブレット1つで崩れてしまったようだ。
その後簡単に名前や置かれた状況の共有などを図った。
彼女等は通尊軍の斥候だったそうだ。だが本隊は彼女を置いて森の奥から戻ってこないそうだ。私達の攻撃が成功していれば彼女の本隊の兵は私達の攻撃で死亡している。
「多分貴方の仲間は戻ってこない。ここは危ないから私達の合流地点まで向かおう。途中で通尊軍が現れたら貴方とはそこでお別れ。」
私は濁しつつ彼女に伝えた。
「そうですか大尉!ではしばらく貴方に付いて行けばいいんですね?」
彼女はそう答えた。ものわかりが良くて助かる。
「食料はどれぐらい持っているんだ?」
彼女は不安そうにこう言った。
「あと3食程です…」
そもそも長期の行動を想定していなかったのだろうか。私の持っている食料と合わせて2人分で割るととてもじゃないが足りない。現地調達が必要になる。サバイバル生活を行える最低限の知識はあるが確実ではない。しかし私は生きて帰って中隊長をぶん殴ってやらないといけないのだ。
「よし、食料を調達しつつ合流地点に前進する。1日20キロ歩ければ5日でつく。無理なら無理とすぐに言ってくれ。ココで病気になるのはヤバイからな。」
私はとりあえずリュックからナイフを取り出した。
墜落してから2日が経った。あと50キロで合流地点だ。
「よし、今日はこれくらいにして休憩しよう。」
私はおもむろに寝袋を準備する。20時間ぶりに横になれるのだ。1秒でも早く横になりたい。
「私が準備している間警戒を頼む。」
彼女にそう伝えるとわかりました〜と元気のない返事が帰ってくる。彼女も相当疲れているようだ。
敵ではあるが警戒はしなければならない。ココは彼女を信頼するとしよう。
「大尉〜起きてください〜もう朝ですよ〜!私も寝たいです!!!」
甲高い声で起こされる。ジャングルの朝は気持ちいいモノではない。
「交代だ。6時間ほど仮眠を取るといい。」私はそう彼女に伝え警戒につく。
そういえばここ24時間ほど銃声を聴いていない。ついさっきまで銃声や爆発音が鳴り響いていたのだが。味方が救助部隊を今更派遣でもしているのだろうか。
多目的通信端末を覗くも電波は未だに入らない。この端末が繋がりでもすればすぐにこの不快なジャングルから抜け出せるのだが。
色々考え事をしていたら彼女が起きてきた。
「大尉〜お腹空いて寝られないです…ご飯とか無いですか…」
確かにお腹が空いた。私は携行食料を配布しようと思ったが、銃声の止んだ今なら食料調達も可能だろう。
「近くの川で魚でも釣るか。」
私達は準備をして川の近くまで移動した。
「ねえ!みてください大尉!大きな魚釣れました!」
大声で彼女は私に報告してくる。
「大声を出すな。見つかったらどうする。」
敵が近くに潜んでいる可能性もゼロではない。私は簡単に釣った魚を処理して焼きながら小さな声で彼女に言った。
さっさと食事をして北へ進みたいものだ


墜落してから4日がたった。
端末の地図で位置を確認するとあと10kmもすれば合流地点となっていた。地図上では。
合流地点となっていた開けた丘は焼け、大きな森林火災が起きていたのだ。10km先から見ても分かる。とても近寄れるような状態ではない。
期待を込めて救難信号を送り救難無線を打ち、救護ネットワークに接続をしたが何も起こらなかった。
ふと空を見上げると星マークの書かれた緑色の迷彩のヘリコプターが水を投下している。
味方は火災発生後すぐに撤退したのだろう。代わりに通尊軍が消火活動を行っていた。この調子だと近くに地上部隊も居るのだろう。私は彼女に声をかけた。
「想定外だが通尊軍が近くに居るみたいだ。戻れば保護してもらえるだろう。」
彼女は言った。
「私は戻れません。逆賊の施しを受けたらもう戻ることは出来ません…」
彼女は深刻そうに私のレーションパックの中に入っていたチョコレートを咥えながら言った。
戻れない…となると私がどうにかするしか無いのか。捕虜にするのか?しかし今更捕虜にするのはなんだか気分が乗らない。
「レゴネシアに来るつもりなのか。」
私は思わず呟いた。
彼女は一瞬表情を曇らせた後、作り笑顔をしながらこう言った。
「私はもう祖国には戻れないです。通尊人としての私はもう死んじゃったんです。どうしたら良いんですかね…私は頭が悪いので分からないです。えへへ」
私は遠くから人が来る気配を察した。
「とりあえずココは危険だ。通尊軍と合流しないのなら逃げよう。」
私達は逃げるように飛行機の墜落地点に向かった。
 だが、運命は私達に味方しなかった。墜落地点に向かう最中、
木陰から影が現れた。
彼女はしまった。と言った表情でこう言った。
「私の上官です。ここは私に任せてください。」
ここは彼女に託して見ることにした。
私は静かに頷くと彼女は影に向かって歩き始めこう言った。
「ど…同志中尉!お、お久しぶりです!」
彼も彼女に挨拶する。現れた通尊兵は深紅の帽子を被り、腰に刀を差している。みたところ将校のようだ。年齢は私と同じぐらいだろうか
「ところで後ろにいる搭乗員は君が捕らえた捕虜か?」
将校が一息置いて呟くように尋ねた。
「私の捕らえた捕虜です!我ながら大戦果です!」
彼女は苦笑いしながら虚偽の報告を行った。私も思わず苦笑いをしていた。
「そうか…それは大戦果だな…手に持っているチョコレートはなんだ?それに何故視線を逸らしながら報告するんだ?なにか後ろめたいことでもあるのか?」
将校は彼女の発言を追及する。
「え…えっと…それはですね…本当は…」
彼女の声は今にも枯れそうだ
「はあ…やはりか…想像はつくが同志達とはぐれた後、この搭乗員と2人で密林を彷徨っていたのだろう。敵軍の助けを借りてしまった以上、君は敗北主義者だ。連れ帰っても強制収容所に送られるのがオチだろう。」
将校は深刻そうな表情を浮かべながらさらに続ける。
「私は強行偵察に出撃した君らの捜索のために小隊を率いて出撃した。私の目的は捜索だ。敗北主義者を見つけて強制収容所に送りつけるのではない。」
すると将校は突然、話すことをやめ、彼女のドッグタグと階級章を剥ぎ取り言う。
「君は名誉の戦死とげた。もう兵士ではないのだよ」
そう彼女に告げると今度は私に向かってネシア語でこう述べた。
「彼女はご存知の通り、戦闘において秀でた才能もありません。ですがどんな逆境にも打ち負けない強い意志を持っています。どうか彼女のことを守ってあげてください。」
彼の顔は本気だった。笑みを浮かべながら私は答えた。
「わかりました。どうにか生きて帰って見せます。それにしてもあなたは不思議な人ですね。丸腰の敵兵を捕らえないなんて」
彼は得意げな顔でこう述べた
「私はア連帰りのエリートなんですよ。その辺のたたき上げとは違って無益な戦闘や攻撃は望みません。ではこれにて」
私は静かにお辞儀をした。
「同志中尉!お元気で!」
彼女が去りゆく将校に挨拶をした。おそらくこれが最後の挨拶だろう
彼はこちらを振り返り、笑みを浮かべ後、そのまま木陰へ消えていった。
その後、「こっちには誰もいない!」とか「東に行ってみようなど」の兵士の声が聞こえた後、私たちの周りから人の気配が消えた。
彼女は複雑な表情をしながら小さく囁いた。
「私はもう兵士じゃないんだ!」


更に歩くこと1日。ジャングルで体力と物品を消耗し、携行食料もあと僅かだ。
「大尉~お腹すきました~休憩にしましょう~」
雀の泣くような声が聴こえる。2時間前からずっと彼女は同じようなことを言っている。
たしかにお腹も空いたことだし休憩にしよう。私はつぶやく。
「もう今日は移動はやめよう。ココで大休止だ」
彼女は満面の笑みだ。相当疲れていたのだろう。私は寝袋を用意して彼女に言った。
「だいぶ疲れているように見える。ここらでゆっくり休んでくれ。」

空を見上げるとまだ通尊軍の戦闘機が飛んでいるのが見える。我が空軍が追い返されたのだろう。予定では今から12時間後、今いる空域に3個飛行団が追加される事になっていた。無論私は入れ替わりに本土に帰る予定だったのだが。
3個飛行団が追加されれば我々の空だ。敵は居ないだろう。そうすれば救難隊も飛べる。
空軍が撤退したとなると陸軍はもっと早く撤退したに違いない。上層部はなるべく人的損害を出さないようにしたいみたいだ。
つまり、今後出くわすであろう人間は全員敵だ
あと12時間私達は生き残らなければならない。
残弾を数えるが30発弾倉が2つ。彼女の残弾は分からないが、見たところ良くて50発だろう。囲まれたら勝てないのは明らかだ。
また、私は戦闘服ではない。陸軍の兵士と違って防弾チョッキもなければ軽量な鉄帽もない。国に戻ったらもう少し装備を充実させるよう上申しなければ。

彼女が寝始めて6時間がたった。我が空軍が制空権を取るまであと6時間。
日が落ちたこともあって通尊軍の活動はほとんど無くなったようだ。
私はココで待つことを決め、枝や糸などで軽い罠を作った。
誰かがこの罠に引っかかれば音がなる
「おはようございます。あ、夜なのでおはようじゃないですね。」
彼女は眠そうな目を擦りながら起きてきた。まだ寝ぼけているのだろうか。
私も疲れた体を休めたかったが、今置かれた状況を考えると休んでいる場合ではない。
「最後の携行食料だ」
そう言って私は背嚢の中に入っている最後の携行食料を彼女に渡した。
あと6時間なら我慢できる。
彼女はムシャムシャと携行食料を食べながら言う。
「大尉…助けはいつ来るんですか?周りは同志しか居ないようなのですが…」
私は空を見上げながら呟く。
「さあな。今すぐ来るかもしれないし、明日来るかもしれないし、1ヶ月待っても来ないかもしれない。」
「それでも私達は待つしか無いのだ。」
彼女は暗い顔で言った。
「待てば祖国に帰られるの、羨ましいです。私、家族に褒められたくて軍隊に入ったんですよ。私の国では珍しい志願兵。志願兵だからって1年半で地球の裏側に来たんです。笑っちゃいますよね。何も考えないで生きてきたから神様が怒っちゃったんですかね。へへへ」
私はかける言葉を失った。
もし私が彼女と同じ状況に置かれたらどうするのだろう。
祖国には帰ることが出来ず、周りに頼れる人間が居ない。助けを求める?誰かが助けてあげなければならないのか。だが中途半端な優しさは時に不幸を生む。
このジニア戦争も双方の“優しさ”が産んだ戦争だ。
アラン共和国とアラク連邦の喧嘩を代理でレゴネシアと通尊がやっているに過ぎない。
何が地域の安定だ。戦地となったジニア地域は双方の攻撃で荒れ、我が国はインフラ攻撃まで行っている。通尊軍は報復として国境沿いの都市を砲撃、民間人の死者が沢山出た。もう両国とも手を引けない状況になってしまったのだろう。

もし私が一時的な感情で彼女を助けたとしよう。その後どうするのだ。
彼女は一人レゴネシアで生活するのか。価値観は違う、言葉も通じないレゴネシアで。
やはりココは私が面倒を見るべきなのだろうか。
考え込んでいると彼女は声をかけてきた。
「大尉!レゴネシア行ったら色々案内してくださいね!私楽しみです!」
彼女の笑顔はまるで宝石のようだった。
彼女をちゃんと祖国に連れて帰ろう。私はそう思った。


日が明け、墜落してから1週間が経過した。
「友軍機…じゃなくて通尊軍機飛んでないですね。静かで怖いですね…」
彼女は木の枝で土を穿りながら呟いた。
私はそろそろ味方の空軍が飛んでくる頃だと思った。きっとレーダーに映ったのだろう。そう考えていると彼女が飛んできた。
「大尉!無線機?から声が聞こえます!何言っているかわからないですけど…!」
彼女の背負う通信端末が鳴っていた。
「ザザッ…コチラ…コチラ救難…応…せよ」
救護無線が繋がったようだ。
「コチラ、フェニックス1、救難隊、応答せよ」
私は久しぶりに祖国の言葉を発した。
その後私は無線の指示通りにビーコンの電波を発信した。
「どうやら助かりそうだ。長い間お疲れ様。」
私は彼女に声をかけた。彼女は言う。
「レゴネシアって甘いもの沢山有るんですかね!?」
彼女はもう甘いものしか頭に無いようだ。
「フェニックス1、コチラ救難隊、応答せよ。」
通信機が鳴った。
どうやら空軍が今いる地域を含めたこのエリア一帯を空爆するそうだ。
南に2キロ進んだ所にある川に救難隊が来るらしい。疲労しているのだから2キロぐらいなら迎えに来てくれてもいいのに。と私は思った。
「私達を回収してくれる地点まで移動する。動けるかい?」
私は土で遊ぶ彼女に声をかけて移動する準備を始めた。


100km近く歩いたした私達にとって2kmなど庭を歩くのと対して代わりは無かった。
川の流れる音と共に聞き慣れたエンジン音が聞こえた。友軍のヘリコプター、NH-20の音だ。
「もう少しで合流できる。これでゆっくり休めるな。」
私は彼女にそう言った。
「もう少しで甘いものが食べられます…」
銃声とともに彼女は倒れ込んだ。
「後方に敵兵を確認、無力化しました。」「了解、引き続きパイロットの回収を行う」
友軍の声だった。
私は叫んだ。
「私だ!彼女は敵ではない!早く手当をしろ!」
私は彼女の元に駆けつけた。出血が酷い、早く手当をしなければ命に関わるかもしれない。

 


墜落してから2週間が経った。

都市間高速道路を走る一台の車がいた。私は祖国に戻り、愛車を運転している。長い休暇を頂いた。行く先は軍の病院だ。
肩を撃たれた彼女だが、あの後迅速に処置がなされたため命に関わることはなかった。ヘリで野戦病院に運ばれ、アラン軍の病院で手当を受け、私達は祖国に帰ってきたのだ。
私は敵兵を連れてきたということで3日間以上聴取を受け、彼女も傷が治り次第、長い聴取を受けることになるだろう。
だが並行して彼女の国籍発行の手続きも進んでいることから、捕虜などの取扱は受けないであろう。私はハンドルを握りながら呟く。
「これからどうなるんだろうか…」
考え事をしているうちに彼女の居る軍病院についた。
入り口でしばらく待っていると聞き覚えのある声がした。
「もう大丈夫です!心配かけてすみません…えへへ」
彼女は通尊語でそう話した後、彼女と私は車に乗り、基地の憲兵隊の元に向かった。
車の助手席で彼女は言った。
「レゴネシアは右も左もわからないですけど、これからもよろしくお願いします、大尉!、まずは言葉、覚えないとですね!、不安も大きいですけどこれからの生活が楽しみです!」
言葉の壁など彼女にとっては関係ないのだった。

 

~あとがき~

通尊兵の設定などはつまようじさんに協力していただきました。

通尊兵ちゃんかわいいですね…えへへ

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2017年07月13日